天下人が認知症!? 戦なんてそっちのけの大河
TVふうーん録(103)
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天下人が認知症!? 戦なんてそっちのけの大河
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 殺戮と搾取を繰り返した戦国武将が好きじゃない。大河も戦国と幕末ばかりでつまらんと思っていた。が、今年は違った。「真田丸」にハマった。オープニングのバイオリンの音からして好み。強弱と緩急が絶妙。音楽に興味のない私が、毎週♪タリラリラ〜(文字にすると知性が欠如)の音色に聴きいったのだ。何がよかったのか、まとめてみよう。

 

 まず「戦国武将を美化しない」点。登場人物がセコくてコスい。騙し合いに化かし合い、猿芝居に肩透かしに大ぼら吹き。戦国の世の勇ましい姿なんて後付けだね。口だけ大将は本番に弱くて下痢しちゃうし、名刺配りに勤しむ武士もいる。兜に香焚いちゃうオシャレ男子まで登場。亡霊にビビるわ漏らすわボケるわもありで、全編通して「男の沽券と武士の威厳」を奪う作りなのだ。とにかく三の線。

 

 対照的に、女たちが滅法強く、しゃしゃり出る。重要な駆け引きは女たち任せ、主要人物の死すらも女たちの口から伝えられるなど、女の暗躍が目覚ましい作りだ。ある意味、おんな大河。

 

 さらに「歴史的大局は一瞬でスルー」。合戦とか興味ないと言わんばかり。私も同感。とことん口に合う。

 

 そして、ちょくちょく「農民の声を盛り込む」。武士は忠義だのお家存続だのとぬかすが、農民は大迷惑。繁忙期に作業はできないし、年貢は搾取されるし、行きたくもない戦に駆り出されるし、殺されるし。今野浩喜が演じた与八に最も共感。さぞや無念だっただろう。

 

 百姓出身の秀吉の弟・秀長を演じた千葉哲也のセリフにもしみじみとした趣があった。「ついこの前まで百姓だったのに、あっという間に天下人。心がついてきてないのだ」とな。暴君と化した兄に苦言を呈する人格者。人の心を忘れない、素晴らしい設定だと思った。

 

 セコくてコスい武士たちがコメディで終わらないのは「戦慄の言霊」が織り込まれるからだ。「根絶やし・皆殺し」は残忍な言葉だと思う。笑いと恐怖の緩急にやられた。やられっぱなし。

 

 さらに「現代社会にも通ずる問題」の描写も興味深い。秀吉の認知症介護問題、母(高畑淳子)の経歴詐称、兄(大泉洋)の不倫&三股、フリーランス武士の大量失業、兄弟間コンプレックスと確執。時代は違えど悩みは同じ。大河で「あるある〜」と共感したのは久々だ。

 

 そうそう、能や雁金踊り、やつしくらべ、真田紐など芸能文化をふんだんに取りこんだシーンも心から堪能。

 

 さて、役者陣の話を。毎年必ずヘタな人がいるのだが、真田丸には不在。主役をはじめ、全キャストが適材適所で腑に落ちた。全体的に声が軽くて高い俳優が多かった気も(ついでに三谷幸喜に似た顔の俳優が多かった気も)する。そんな中で上杉家家臣を演じた村上新悟だけは見事なバリトンボイス。声で絶大な安心感をもたらすという妙技。

 

 おこうを演じた長野里美にはMVPを。健気か自虐か。幸か不幸か。あの生きざまをどうとらえるべきか、未だに考え中。終わって寂しいが、ようやく堺雅人を他局ドラマで観られるようになると思うと嬉しいかな。

 

 

※「週刊新潮 2016年12月29日・1月5日新年特大号」掲載

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/