ジャニーズの不文律を破らせた坊主頭の「軍師官兵衛」
TVふうーん録(1)
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ジャニーズの不文律を破らせた坊主頭の「軍師官兵衛」
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 私の夫は元役者。20年以上前に、柔道の青春ドラマに出演した際、柔道未経験の役者に対戦シーンで思いきり踏まれ、足指を2本骨折したそうだ。体の使い方を知らない役者は本人も怪我をしやすく、逆に凶器にもなる、と熱く語っていた。
 体の使い方がわかる役者と言えば、私の世代ではやはりJAC(ジャパンアクションクラブ)を思い出す。志穂美悦子や伊原剛志もJAC出身だった。アクションができる美男美女と言えばJACである。JACの中でもアクション俳優として最も人気を博したのは、たぶん真田広之だろう。今は、活躍の場を海外に広げ、日本の映画やドラマではとんと見かけなくなった。整った顔立ちに小ぶりの筋肉質、凛とした佇まいをまた観たいなぁと思う。
 なぜ今頃真田広之かと言えば、「軍師官兵衛」主演の岡田准一が真田広之を思い出させたから。端整な顔立ち、身のこなしの軽さ、共演者と比べると慎ましやかなサイズ。そのためだけの苦しく長いマクラである。
 大河ドラマが以前のように沸騰せず、話題に上らなくなって久しいのだが、一応、観続けようという気迫だけは忘れていない。ただ、記憶に残る、あるいは心を掴むシーンが登場せず。
 まあ、そもそも私の心を掴むのは、高尚とか豪傑とか、あるいは今、日テレで流行の「清廉性」を感じるようなシーンではない。
 岡田演じる官兵衛は、とにもかくにも上司に恵まれない印象で始まった。赤鼻メイクで過剰に卑小な小寺政職役の片岡鶴太郎、他の役者陣に比べて加齢現象とコメディ要素が激しすぎる豊臣秀吉役の竹中直人。
 主君や暴君に抗えない中間管理職の悲哀を「外見の格差」でわかりやすく描いていく。よりによって戦国の世で、まさかの「清く正しく平和に」をモットーとする岡田に、視聴者が心をぴたりと寄せられるように。いや、寄せざるを得ない。外見も言動もゲスい上司に振り回されっぱなしだもの。
 途中、谷原章介演じる半兵衛と官兵衛の音が紛らわしくて、集中力を削がれる。私も年だ。ハンベエとカンベエがややこしくなるとは。こうなったら、濱田岳と高橋一生を描いて、さっさと片付けようと思ったのだが、途中でうっかり官兵衛幽閉。
 あの暗くて汚くて湿った土牢シーン以降の岡田には、鈍く光る貫禄が現れたので、もう少し観てからにしようと溜めこんでしまったのだ。
 で、ふと気づくと、官兵衛がすっかり如水に。「時代劇でもあまり月代にしない」というジャニーズタレントの不文律(東山紀之は別枠。逆に月代のほうが似合うという特殊な立ち位置)を、丸坊主という別の形で破った岡田。血気だけは盛んな愚息(松坂桃李)に手こずりながらも、ようやくカタルシスの時を迎えた。秀吉の死と徳川家康(寺尾聰)の開眼である。いや、如水自身の覚醒でもある。
 ここでようやく絵にしたいシーンが登場。天下人の秀吉は譫妄と執着心に囚われたまま死ぬ。閉じていた目を見開く家康。「盛者必衰の理」と「人間の欲深さ」を描きたかったのか、私は。

※「軍師官兵衛」(NHK総合、日曜20時~)
※「週刊新潮 2014年12月4日号」掲載

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/