他人に振りまわされている全ての女性に捧げるドラマ
TVふうーん録(101)
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他人に振りまわされている全ての女性に捧げるドラマ
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 親友がマンションを購入した。物件は気に入ったのだが、いかんせん営業マンがひどかったらしい。息まく若手ベンチャー不動産屋だそうで、契約だけは急かしておきながら、その他の重要事項はほったらかし、手続きに必要な書類は1週間放置。そのくせ、サイトの「お客様の声」では顔出しと高評価を要求。メディア掲載一覧だけは、ずらりと並べて一丁前。創業して間もないので、ツテを使って押し込みやがったなとわかるほどの提灯記事ばかり。

 

 そんな会社に手数料払うのか!と憤りを感じたが、彼女も激務で「バカに関わる時間がもったいない」と諦観の域に。今の彼女にはあまり見せたくない、見せてはいけないドラマがあるので、ここで紹介しておく。

 

 売り逃げして終了ではなく、万全と厚情のアフターケア、客に親身になりすぎる不動産営業マンが出てくる「プリンセスメゾン」だ。

 

 主人公は26歳。両親を亡くし、親戚はいるものの実際には天涯孤独。18歳から独り暮らしで、オンボロアパートに住みながら、居酒屋で8年以上働き続けている。演じるのは森川葵。おさげ髪&オーバーオールの「家なき子ルックス」のあどけなさとは裏腹に、自分の哲学と言葉を持っている。

 

 森川はアパートの水漏れをきっかけに、マンション購入を決意。新築マンションのギャラリーへ行くと、手練(てだ)れの派遣スタッフ・陽月(ひづき)華が待ち構えていた。

 

 幼い外見で、到底家を買うとは思えない森川に、陽月も最初は半信半疑。ところが、主語が自分で凛とした森川の生きざまに触れて、少しずつ感化されていく。森川に心奪われるのは陽月だけではない。そのマンションを販売する会社の敏腕営業マンである高橋一生もしかり。「女がひとりで家を買う」ことの重大さと有意義さを真剣に考え始める。

 

 陽月と高橋は森川の心に寄り添って、不動産購入に関して親身にサポートをしていく。冷静だが、表情変化による意思表示が激しいふたりが競い合って(時には品よく罵り合って)、森川の家探しに協力する姿は、なんだかとてもおかしくて、同時に、新しいと思った。

 

 恋でも友情でもない。単なる客と売り手でもない。陽月も高橋もビジネスとしか考えていなかったマンション販売について、思いを深めていく。さらには自分の生きざまをも振り返り始める。なぜなら森川が清々しく自立しているからだ。

 

「周りからどう思われるかよりも、自分の気持ちが大切」「まずは自分の人生をちゃんと自分で面倒見て、誰かと生きるのはその後です」と断言する森川。観ている私も気持ちがいい。他人の尺度で生きることの馬鹿馬鹿しさを教えてくれるのだ。

 

 このドラマ、すごく地味だが滋味深い。「女が『主語は私』で生きていくこと」を丁寧に真摯に描いている。高橋の顧客で売れっ子漫画家の木野花や、森川の住むアパートの大家で、ホームレスのような格好の渡辺美佐子も、「主語が私の生きざま」を見せてくれている。

 

 主語が自分ではない生き方ゆえに心が摩耗している、すべての女に観てほしいわ。

 

 

※「プリンセスメゾン」(NHKBSプレミアム、火曜23時15分〜)

※「週刊新潮 2016年12月15日号」掲載

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/