生活臭・体臭、人間臭いオッサンたちの事件簿
TVふうーん録(97)
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生活臭・体臭、人間臭いオッサンたちの事件簿
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 世間では忌み嫌われる加齢臭。私は嫌いじゃない。クレヨンのような懐かしいニオイだ。ワキガも嫌いじゃない。ネギ系とアニマル系があると勝手に分類しているのだが、特にアニマル系は好物。口腔内細菌や排泄物、生乾きのニオイは嫌いだが、皮脂臭はアリだと思う。そんな皮脂臭を、まさかドラマから感じ取れるとは。「スニッファー嗅覚捜査官」である。

 

 主人公は阿部寛。870種の嗅覚受容体を持つ男だ。警視庁の特別捜査支援室で、現場に証拠がない特別な案件を解決すべく、コンサルタントとして起用されている。そのバディが香川照之。元マル暴の刑事で、晴れて本庁勤務となるも、偏屈な阿部の御守役を押し付けられる。射撃の腕前はピカイチだが活躍の場はない。

 

 阿部は鋭敏すぎる嗅覚を保護するために、普段は特殊な鼻栓をしている。鼻栓をプシュッと外した途端、ありとあらゆるニオイの化学物質名まで言い当てる。その的確な指摘で、事件を解決に導くという物語だ。

 

 ニオイフェチの私をまず虜にしたのは、香川の生活環境だ。独身で絶賛婚活中、老いた母(吉行和子)と下町の古い木造家屋に同居。このシチュエーションだけでいろいろなニオイが飛び込んでくる。トイレは和式、元洋品店の家の中には商品であっただろうモノが山積。何十年も前から壁に貼ってあるペナント。樟脳と線香の香り、香川と吉行親子ふたりだけの長年の生活臭がぐっと迫ってくる。阿部が香川のことを「ニオイを背負い過ぎている」と邪険に扱う意味もよくわかる。

 

 こんなに生活臭と体臭を感じさせるドラマはそうない。今は無味無臭・人畜無害がウケる時代だからな。ニオイの話を書くとキリがないので、先に進めよう。

 

 このドラマの何がよいかというと、阿部も香川も案外みっともない点である。

 

 阿部はクールかつスタイリッシュで、特殊能力を駆使するホリの深い二枚目に一瞬見えるが、鼻芸(鼻栓の取り外し)と配慮の足りない無神経さが笑いを誘う。頭脳と嗅覚だけで、豪胆でも勇敢でも人格者でもない。

 

 香川も元マル暴の割に、非武闘派の人情派。現場で煎餅食ったり、ヤクルト飲んじゃう無邪気さもあれば、暗闇を怖がる臆病さもあり。そしてあっさり犯人に拉致されたりもする。ややキャラ渋滞感もあるが、独身の理由がふんわりと伝わる。

 

 事件解決はするが、カッコいいアクションシーンは皆無、犯人確保も人任せ。カッコよさは女刑事役の高橋メアリージュンにお任せ。レギュラー陣は拍子抜けするほど人間臭いっつう、オッサンたちの事件簿なのだ。

 

 で、心を打つのは殺人犯のほうだったりもする。人生に挫折して、富裕層の暗殺を実行した劇団ひとり、娘を殺された復讐を果たすトータス松本。殺人に理由もへったくれもないが、抱える切なさとやりきれなさがぐっと伝わる好演だった。

 

 こんなに珍奇でハイセンス風味のオッサン事件簿が全7話って、少なくない? 阿部&香川の濃度を全20話に分けても、充分残り香が立つと思うんだけどなぁ。

 

 

※「スニッファー嗅覚捜査官」(NHK総合、土曜22時〜)

※「週刊新潮 2016年11月17日号」掲載

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/