不仲夫婦の教訓にもなる「契約結婚」ドラマ
TVふうーん録(96)
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不仲夫婦の教訓にもなる「契約結婚」ドラマ
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 我が家には猫がいる。床には髪の毛と猫の毛と埃が塊となって転がっている。西部劇で風に吹かれてコロコロしてるやつみたいな。あるとき、それを見た夫が「いつもコロコロしてるね」と言った。「掃除しろ」と言わず、自ら掃除するでもない。コロコロの存在を確認して、何事もなかったかのようにテレビを観ていた。この人とは生活の相性がいいな、と思った記憶がある。

 

 なんでそんなことを思い出したかというと、TBSの「逃げるは恥だが役に立つ」を観たからだ。独身・高収入・童貞役の星野源が家事代行を頼んだら、生活の相性がいい、無職の新垣結衣がやってきたという話。

 

 新垣は大学院修了で臨床心理士という才女だが、掃除・洗濯・料理と家事全般が得意という設定。就職活動はことごとく失敗。派遣で働いていたものの、契約を打ち切られて無職に。

 

 星野は自分が快適に過ごせる暮らしを実現してくれる新垣と雇用契約を結ぶ。家事に対して給料を払い、新垣には仕事として妻を演じてもらう「契約結婚」だ。

 

 ちょっと出来過ぎな始まりではあるけれど、このふたりが話し合いながら契約内容を淡々と決めていく姿は合理的だった。結婚前にこうして決めておけば破綻しないのでは?とも思わせる。本音と自尊心の隠し合いでうっかり結婚してしまい、お互いに憎悪を抱いている夫婦も多いからねぇ。

 

 この「愛のない結婚」の見どころは3つ。ひとつは家族や親戚、職場の人間や友達をも騙すという点だ。

 

 要は偽装結婚なのだから、必ず綻びが生じるはず。そこは抜かりなく手練れを配置して、面白おかしいサスペンス調に作っている。

 

 職場の同僚である古田新太と大谷亮平は、怪しがってやたらとふたりに近づく。清潔感がない珍しいタイプのゲイを演じる古田は、疑り深くて執念深い。また、初期の竹野内豊にそっくりな(棒演技まで似てる)大谷は無神経なイケメンだが、あざとく嘘を見破る。

 

 星野も新垣も友達がほぼいない設定だからこそ偽装結婚が成り立つわけだ。人間関係が最小限なので、無駄のない流れに。新垣には親友(真野恵里菜)がいるが、打ち明けないというのも今っぽい。何でも話せる友達なんて不要で不毛なのよね、今の若い人にとっては。

 

 見どころふたつめは、愛がないはずの契約結婚に、お互いの感情が芽生えてしまう過程を丁寧に描く点だ。

 

 女性経験のない星野は一つ屋根の下に住む新垣に対して、過剰に意識し始める。自意識も他意識も過剰という複雑な男性心理が見事だなと思う。新垣は多少意識するものの、仕事と割り切って従業員に徹する。この男女の温度差が奥ゆかしいやら、切ないやら。ふたりのセリフもセンスがいい。「慮(おもんぱか)る」という字が頭に浮かぶような言葉選びなのだ。

 

 最後の見どころ。49歳処女の石田ゆり子だ。新垣の伯母で独身キャリアウーマンだが、見るからに面倒くさそう。罵詈雑言を吐くクセに、中身は乙女って厄介。切なさとかはもういらないから。振り切った痛々しさを張り切って見せてほしい。

 

 

※「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系、火曜22時〜)

※「週刊新潮 2016年11月10日神帰月増大号」掲載

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/