ドロドロ不倫の正しい笑い方を教えてくれるドラマ
TVふうーん録(94)
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ドロドロ不倫の正しい笑い方を教えてくれるドラマ
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 不倫は、赤の他人が罰したり、糾弾して追い込むものではないと思っている。道ならぬ恋に腑抜けた人が、無関係の他人に罰せられて仕事を失うことに違和感。しかもそれは女のほうが多い。変な世の中だね。もっと笑っちゃえばいいのに。理性を失って欲望に走る姿を「間抜けだね♪」「クズだね♪」「ゲスだね♪」と、みんなで嘲笑えばいい。ただそれだけのことなのに。

 

 そんな正しい不倫の笑い方を示唆するドラマが「黒い十人の女」だ。昔の市川崑監督の映画では、調子のいい色男(船越英二)が10人の女たち(山本富士子、岸惠子、宮城まり子、中村玉緒ら)によって社会的に抹殺されるという、おしゃれノワールフィルム。今思うと、画期的な映画だった。

 

 平成の今、男は不倫で職を失うことは少なく、経歴詐称や金の使い込みなどチンケな自己顕示欲が問題になることが大多数だもんね。

 

 で、ドラマの宣伝惹句がまず良い。「不倫です。みなさんが大好物の。(10股)」とな。女好きで10股をかけているテレビドラマプロデューサーを船越英一郎が演じている。妻は色香と凄みの二人羽織・若村麻由美。船越は父・英二が映画で演じた役をこなす。気のせいかな、チラチラ映り込んでくる生霊のようなものが。出演していないのに、なぜか松居一代がちらつく。

 

 それはさておき。船越が手を出したのは、舞台女優の水野美紀(劇団絞り汁所属)、アシスタントプロデューサーの佐藤仁美、テレビ局受付嬢の成海璃子、女優のトリンドル玲奈、脚本家のMEGUMI、ヘアメイクの平山あや。四方八方、手あたり次第という構図。

 

 もうね、成海と水野と佐藤だけでも結構楽しい。「不倫なんて生理的に無理!」と思っているような、まっとうで素直な成海が、船越みたいなオッサンに絆(ほだ)されていく姿はリアルだ。不倫を毛嫌いする人ほど、不倫のドツボにハマり、しかも他人の不倫を許さないという風潮も示唆。今どき珍しく、マスカラを塗らない・盛らないまつ毛も新鮮。そこに役柄の強固な意志を感じさせる。成海は舞台で活躍していたが、ミラバケッソCM以外に思い浮かばなかった。コレは当たり役。

 

 で、愛人歴8年の水野は、劇中でやたらと乳製品やあんかけ焼きそばなどをぶっかけられる役なのだが、おかしさと痛々しさを自然体で演じる。目と口の演技、間合いの取り方には、コメディエンヌのいぶし銀を感じた。そんな水野とちくちく探り合いをするのが、地味に水面下で策を練る佐藤。水野&佐藤の丁々発止が愉快だ。オカマの罵り合いクラスの直球勝負が心地よい。

 

 このふたりの熟した演技を観て、「女優は無理に口角を上げるのをやめたときが成熟期」と悟る。いつまでも口角を無理やり上げる女優って頭悪そうだもんな。

 

 脚本・バカリズムの心根に蔓延(はびこ)る「絶望的な女不信と圧倒的審美眼」が、この作品に余すところなく表現されていると思う。いいね、女なんてそんな生き物よ。みんな腹の中で舌出して笑ってるよ。純愛と思っているのは男だけだよ。たぶん。

 

 

※「黒い十人の女」(日本テレビ系、木曜23時59分〜)

※「週刊新潮 2016年10月27日」掲載

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/