秋の特番を見ながら感じたテレビ局の変容と思惑
TVふうーん録(93)
TVふうーん録(93)
秋の特番を見ながら感じたテレビ局の変容と思惑
初回から読む
テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 前回に引き続き、特番&2時間ドラマについて書く。実は、毎年10月のCBC製作スペシャルドラマを楽しみにしていた。役所広司主演の「初秋」(2011年)が秀逸だったから。その後も、北川悦吏子脚本の三部作「月」シリーズを真昼間に観るのが恒例に。常盤貴子「月に祈るピエロ」、和久井映見「月に行く舟」、原田知世「三つの月」。が、今年の作品は、どうにもこうにもいただけぬ。むーん。

 

 10月2日放送「ハートロス 虹にふれたい女たち」である。主演は斉藤由貴。娘の川島海荷が追っかけをしている歌手に、斉藤もハマってときめくという内容だ。

 

 今から全国の中年女性を敵に回すことを書く。アイドルだのアーティストだのにどハマりしている人を見るたび、私は遠い目になる。特に「彼が結婚なんて許せない」「結婚相手の女を呪う」「〇〇ロス」と騒ぎ、妄想と現実の境目がぼやけて他罰に走る人は、どうかしてるぜ、と思う。何か特別な脳内物質が出る体質なのか。

 

 呆れる一方で、その妄想力と行動力と財力に感心する。日本経済を支えてくれていると感謝する(非常に丁寧に侮辱しております)。

 

 ま、とにかく「ハートロス」はその手の話。斉藤は娘が心酔する歌手とSNSでつながり、所属事務所から作詞のブレーンになってほしいと乞われる夢物語だ。

 

 ここにはふたつの恐怖があった。ひとつは、斉藤が歌手に送り付けるのが侮辱コメントという点。その歪んだ承認欲求は鳥肌モノ。

 

 もうひとつは事務所からの依頼が詐欺にしか見えなかった点。この手の手法で金を巻き上げられる女性がいるかも。ファン心理を悪用する犯罪について考えさせられた。過去作品のしっとりした秋の趣はどこへ行った? CBCは何に迎合した? 心をなくしたか。

 

 その失望を別の形で癒してくれたのは、尾野真千子主演「狙撃」(テレ朝系・2日放送)だった。出演者自らフライヤーを配る意気込みが話題になっていたが、視聴率は振るわず。警視庁の公安が絡む作品はイマイチ一般ウケしない。出演陣の豪華さに私は震えたのにな。

 

 尾野は「死んでも自分以外悲しまない」と猪突猛進な女刑事役。女刑事が何らかのトラウマ(家族が殺されたとかレイプされたとか)をやたらと抱えさせられるのには辟易(へきえき)するが、最終的には誰も信じられない状況に追い込まれるという終わり方が好みだった。連ドラにならないかなと思うが、なにしろ登場人物が軒並み死んじゃったからなぁ。

 

 公安の秘密を握っていた阿部サダヲは2年間の監視の末、拷問死。その秘密を守ろうと尽力した北村有起哉も、さらにはそのボスの佐藤浩市も撃たれて死んじゃったし。疑惑の本丸・柄本明も自殺。生き残ったのは、公安の鉄仮面・松重豊と清濁を併せ呑むでんでん、そして孤高の尾野のみ。

 

 ここから新たな物語が始まるのかと期待させる。期待させる割に、結局は視聴率御三家(相棒・科捜研の女・ドクターX)に入れ込むであろうテレ朝の常套手段。ドのつく定番に食い込む難しさを噛みしめる秋である。

 

 

※「週刊新潮 2016年10月20日」掲載

 

 

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/