子供嫌い女の色香と強さと隠れた愛情
TVふうーん録(91)
TVふうーん録(91)
子供嫌い女の色香と強さと隠れた愛情
初回から読む
テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 NHKBSプレミアムのドラマで、金をかけていない30分枠が軒並み面白い。NHKが真剣にふざけきった挙句の超名作「植物男子ベランダー」もあるのだが、それはいつか触れることにして。ここ最近では内田有紀と池脇千鶴の「はぶらし/女友だち」、長谷川京子主演の「ふれなばおちん」がぐっときた。特別な仕掛けはない。「淡々とした日常に起きた、ささやかな出来事に女主人公が翻弄される」というのが土台にある。

 

 今、私を喉元からぐっとさせとるのが「ママゴト」だ。主演は安藤サクラ。中国地方のとある町で、場末のスナックを営む女である。舞台は広島かと思いきや、架空の町と言い張るNHK。撮影場所は都内のようだが、方言が私を一気に瀬戸内方面へと誘う。でも海じゃない。川のある中途半端な町。おまけにちょっと閉鎖的。

 

 赤い別珍ソファーでぐるりと囲んだ店内は、紫煙と加齢臭で満タン。そんな匂い立つ舞台に、やさぐれた安藤が異様に似合う。うだつの上がらないおっさんども(田窪一世・戸田昌宏・宇野祥平の最強トリオ)に媚びて叱って酒と煙を浴びせる役で、妙な色香がある。

 

 物語は、安藤の元同僚・臼田あさ美が子連れで訪れるところから始まる。5歳の男児、名前は大滋、ほどよく肥満児、適度にヌケサク(ラップ調にしてみた)という役で、小山春朋が好演。臼田は男に騙されて借金を背負い、にっちもさっちもいかずに窮地。旧知の仲の安藤に、子供を託して出奔。子供が苦手な安藤は悪態を吐きながらも、天真爛漫な肥満児に翻弄され、母の真似事=ママゴトに目覚める。

 

 子供嫌いな大人のもとへ、突如子供が転がり込む作品は、過去にも腐るほどある。脳裏を田村正和の襟足がよぎる。ただし、経済力のある男で隠し子疑惑に大慌て、というコメディだった。

 

「ママゴト」では懐事情も生活環境も、決して子供を預かる余裕はない。しかも肥満児が火事を起こし、安藤は店と家を追われる。借金まで抱えるが、肥満児の母代わりになると固く決意。

 

 安藤は料理も片付けも苦手で粗雑な女だ。でも、決して責任転嫁しない。悪態は吐いても子供は守る。その温かさと芯の強さは、刻一刻と変わる安藤の表情から伝わってくる。うまい。

 

 実は若い頃、風俗店勤務で妊娠し、路頭に迷って我が子を亡くした過去がある安藤。女警官から「子供を持つ資格がない人間」と心無い言葉で罵倒されたことも。悔しさと子を死なせた自責の念が、他人に依存しない・体裁を気にしない今の安藤を作り上げたのねと想像できる構成だ。うまい。

 

 粗野だけど強くて優しい。母はそれでも充分。口汚くてもカレーを作れなくても、立派にママゴトする安藤にぐっと心を掴まれた。出奔していた臼田が、子供を引き取りに来てからの新たな展開も非常に興味深い。

 

 路頭に迷う安藤を救ったのが、同業者の根岸季衣というのも納得。非協調・無頼派の安藤を目の敵にしてきた老舗スナックのママだが、たぶん善人だ。女を追い込むのも救うのも、結局は女。その描き方が心憎い。

 

 

※「ママゴト」(NHKBSプレミアム、火曜23時15分〜)

※「週刊新潮 2016年10月6日号」掲載

 

 

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/