俳優陣は好みでも「ドラマ冬の時代」を感じる「神の舌を持つ男」
TVふうーん録(88)
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俳優陣は好みでも「ドラマ冬の時代」を感じる「神の舌を持つ男」
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 世間の今夏ドラマ評を検索して、悲しい気持ちになった。TBS「神の舌を持つ男」が沸き立つほどの酷評である。「ギャグがダダ滑り」「木村文乃の2サス(2時間サスペンスドラマの略)マニアぶりが鬱陶しい」「古臭いオヤジギャグが笑えない」「向井理の舌が気持ち悪い」「よりによって謎の女・ミヤビが広末涼子かよ」と。あ、最後だけは私の意見だ。

 

 私も「こりゃあ厳しいな」と思っている。一話完結でオチがいつも同じ。起伏に富んでいるように見せといて、実は物語は限りなく平坦。悲しき水平線が見える。

 

 ではなぜ私が悲しい気持ちになったのかというと、「ドラマ好きの中年はウザイ」と世間が評したことからだ。2サスは好きだし、毎度スッポコな展開の「温泉㊙大作戦」や「赤い霊柩車」が好きだ。横溝正史の小説もドラマも映画も好きで、つい「八つ墓村」や「犬神家の一族」のネタで友人同士盛り上がることもある。

 

「神の舌」はこうしたドラマ好き中年が大好物のネタがてんこ盛り。若者はそもそも2サスなんて観ていない。「主人公がなぜか事件に巻き込まれ、何の権限もないのに解決へと導き、予定調和と有終の美の犯人告白@崖もしくはビル屋上」に2時間も付き合ってられない。これを辛抱強く観ていられるのは、高齢者だ。

 

 中年にもなると、2サスの観光地PRやキャスティングの大人の事情なども含めて、包括的に愛でることができる。あー、こうしてグダグダ書き連ねるところが「ドラマ好きの中年、ウザイ」と嫌われるのよね。

 

 主演は、今回初めてダサイ役の向井理。伝説の三助(温泉地で釜焚き・掃除・マッサージを担う職。それがなんと火野正平)の孫で、舌にのせたものの成分がすべてわかるというスーパーナチュラル。セクシーな役どころのはずが、祖父・火野のほうがセクシーという残念な結果に。チン丸出しも厭わず、ふんどし姿で奮闘するも残念でダサイ。でもダサイオサム、新鮮だわ。

 

 向井と旅するのは、2サスマニアの古物商・木村文乃と、宮沢賢治の言葉をやたらと吟ずる男・佐藤二朗。向井が恋した達磨芸者の広末涼子を追って、温泉地を転々と巡るという物語(一応、説明しとかないとね)。

 

 しかしながら、前述のとおり酷評の嵐。ドラマ全体が滑っていく音まで聞こえてきそうな勢い。私も応援する気はさらさらない。ないんだが、毎回出てくる脇役陣は私の好みだ。「名優を投入した豪華なコント番組」として、愛でている。

 

 毎回やたら訛っている刑事2人組が出てくる。ハンチング&開襟シャツのいぶし銀と若手スーツっつうコンビで……と熱く書きなぐろうと思ったが、脳内でブレーキがかかる。「ドラマ好き中年はウザイウザイウザイ……」(リフレイン)。

 

 まさかドラマで「ドラマ極寒・冬の時代」を示唆してしまうなんて。こんな皮肉があるだろうか。40〜50代のドラマ制作側(脚本・演出・監督)はいよいよ肝に銘じる時がきたのかもしれない。俺らの感覚がウケる時代は終わった、と。悲しいなぁ。

 

 

※「神の舌を持つ男」(TBS系、金曜22時〜)

※「週刊新潮 2016年9月15日号」掲載

 

 

 

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/