今期最もウェットなドラマは清くてやや綺麗事
TVふうーん録(87)
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今期最もウェットなドラマは清くてやや綺麗事
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 子供が授からない夫婦や、長年不妊治療を受けた夫婦が一度は考える「養子縁組制度」。その詳細や実際はあまり知られておらず、ハードルも相当高い。でもドラマで取り上げる意義はある。ドラマだからこそできることがある。なんて、理解者ぶるつもりは毛頭ない。

 

 今期ドラマの中で最もウェットな内容の「はじめまして、愛しています。」だ。

 

 主演は尾野真千子。子供ができないわけではなく、プロのピアニストになるまでは子作りしないと決めていた女性を演じる。さらに子供は苦手。尾野の夫には、夏には暑い&熱い江口洋介。お人よしだからこその不安要素もたっぷり。この夫婦の家に、親から捨てられた男の子(横山歩)が迷い込むところから始まる。横山を我が子として育てるために、特別養子縁組を目指し、奮闘する夫婦の物語だ。

 

 実親に虐待された横山は「試し行動」や「赤ちゃん返り」などの問題行動を起こす。ただでさえ子供が苦手な尾野は子育てに悩み、苦しみ、疲れ果てる。子供と一緒に過ごす時間が少ない江口は、怒らない・叱らないで、子育てのいいとこどり。写真だけは撮りまくる。このあたりは全国の母親たちが「あるある〜」と頷(うなず)いているのかもしれない。

 

 しかしだな、横山が毎回超速でいい子に育っていくんだよ。神童か。あまりに出来た子供なもので、都合よく物語が進んどるなぁと思わざるを得ない。

 

 一方、大人は大人で揃いも揃って不完全、というところはいい。尾野と江口の夫婦も、お互いの幼少期の境遇や持病を知らないという現実味。夫婦は最も身近にいる最も遠い他人だしね。実は「親になる資格」なぞなくて、誰もが五里霧中であることを表現したのかな。

 

 江口の母・浅茅陽子はアルコール依存症で施設暮らし、子育てに思い出も思い入れもない。尾野の父で、世界的に有名な指揮者という藤竜也も同じ。エキセントリックな親でも子は育つ。さらには親と子でも「相性」がある。相性が確実に悪い親子もたくさんいるわけで。

 

 つまりは「子育てに正解も正論もない」というやつね。これ、誰もが頭ではわかっちゃいるけれど、不安で指針が欲しいというのが民の常。そういう意味では、一般的にはウケないドラマだろうなと思ってしまう。清くて、やや綺麗事なのだ。

 

 唯一、世間の代表格みたいな存在が江口の妹・坂井真紀。抜群の小姑感と言えば坂井。ズケズケと物言う割には血迷っている。一所懸命のつもりが空回り。毒母予備軍でもある坂井の存在が厳しい現実を映し出す。

 

 尾野が恵まれているのは、子育てに悩んだときに聞ける相手がいることだ。一見残念な家族に見えるが、親や義妹と電話で話せるだけ幸せ。実際には誰にも相談できず、孤立している母親が多いと思う。特別養子縁組の手続きで尽力してくれた児童福祉司の余貴美子も頼もしい味方だしなぁ。

 

 しかも、親が全力で愛情を注いでも思い通りにならないのが子供。これはドラマではなくて、高畑淳子が身をもって示してくれたよね。親って、切ない……。

 

 

※「はじめまして、愛しています。」(テレビ朝日系、木曜21時〜)

※「週刊新潮 2016年9月8日号」掲載

 

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/