演技力はどうでもいいドラマで涼む夏
TVふうーん録(85)
TVふうーん録(85)
演技力はどうでもいいドラマで涼む夏
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テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

 仕事はできるが、協調性のないヒロインが活躍する夏ドラマ。無表情の辣腕ぶりを爽快感として楽しむか、周囲の悪意の行方をホラーとして納涼気分を楽しむか。

 

 前者は日テレ「家売るオンナ」、後者はフジ「営業部長 吉良奈津子」だ。あまりに暑いせいかな、演技力なんかもうどうでもよくなって、涼し気な顔の女を観たいのかもしれない。このふたつに思いを寄せてみる。

 

「家売るオンナ」は北川景子主演。冷徹かつ的確な洞察力で客の心を掴み、常軌を逸した手口とアイデアで、とにかく家を売りまくる不動産営業ウーマンの物語だ。

 

 仕事ができない、やる気すらないブス社員・イモトアヤコを鍛え上げ、事なかれ主義で威厳ゼロの課長・仲村トオルを叩き直し、八面六臂の働きぶりである。

 

 そんな北川は、当然のごとく職場で浮く。でも、集団においては必要悪というのがあってだな。営業所の面々はかき乱されつつも、まとまりつつある。営業所の成績も上々。気になるのは所内の調和を呼びかけ、理解者を装う梶原善。出世街道から外れ、いじけたオッサンだ。ひとりでいじけておればいいのに、陰で徒党を組み、密かにやる気を削ごうとする。一見穏やかだが根深い偏見の持ち主で、働く女の足を引っ張るのはこの手のオッサンだよねぇ。

 

 北川は無情・無表情・個人成果主義だが、感覚はまっとうであり、外見や肩書、配偶者の有無で人を判断しない。常にフラットは大きな魅力だ。鉄仮面のような北川が、重苦しい家庭問題や面倒な人間関係をバシバシと片付けていく姿は痛快。たとえ詐欺紛いの手法でも、毎回楽しみになってきた。

 

 もうひとつ、「営業部長 吉良奈津子」の主役は、顔も演技も涼しすぎて無個性の松嶋菜々子。産休&育休を経て、肩身が狭くて周囲に過剰に気を遣うワーキングママかと思ったら、なかなかどうして天上天下唯我独尊な女王様。ここで世間のワーママ、大ブーイング。

 

 松嶋は広告代理店(確実に大手)勤務で、そもそもCMを作るクリエイティブディレクターだったという役どころ。仕事のスタイルは「媚びない・迷わない・後悔しない」。一見魅力的だけど、意訳すれば「空気を読まない・独断・反省しない」とも。働くママを表面的に応援するドラマは多いが、ここまで自己中心的なヒロインにするとはかなり挑戦的だ。地道に働く女の共感ゼロからのスタート。

 

 松嶋が復帰後に配属されたのは営業開発部。人の話を聞かない、滔々と家庭の愚痴を話す松嶋は、部下の女性からも敬遠される。

 

 しかも、夫の原田泰造には子育て家庭における不安要素しかない。協力&応援するフリして、心中では不満しかない典型的なエアイクメン。姑・松原智恵子もエグすぎる。家族乗っ取りを目論むベビーシッター・伊藤歩の存在もホラーだし。松嶋は自業自得&四面楚歌でたんと苦しめられるのだ。

 

 このドラマはワーママをありったけの悪意で包み込む、ハートフルならぬヘイトフルな作品。戦慄と鳥肌の連続。つまり、これも夏に最適な納涼ドラマなのだ。

 

 

※「家売るオンナ」(日本テレビ系、水曜22時〜)

※「営業部長吉良奈津子」(フジテレビ系、木曜22時〜)

※「週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号」掲載