炎天下に説得力のない料理人と伝統の棒演技のダブルパンチ
TVふうーん録(84)
TVふうーん録(84)
炎天下に説得力のない料理人と伝統の棒演技のダブルパンチ
初回から読む
テレビ番組を見て感じる「モヤッ」「イラッ」……。でも、やっぱり見てしまう。たまった欲求不満は「TVふうーん録」で解消しましょう♪ 大人ならではのテレビの楽しみ方がココにある! テレビ嫌いなあなたも話のネタにどうぞ。

以前、近所に個人経営のハンバーガー店があった。入ったら、いかにも「ハンバーガー大好き♥」という体形の30代男性店員がいた。そのおなかは、ハンバーガーの旨みを追求すべく味見を繰り返し、肉と脂とバンズの多幸感を享受した証だね、というほど見事な太鼓腹だった。俄然信用した。店はあっけなく潰れてしまったが、妙に説得力があった。実際美味しかった。

 

 しかし。料理人が出てくるドラマではことごとく説得力がない。経験が浅い、若くて薄くて細い体の俳優が天才シェフだったり、凄腕パティシエだったり。「天皇の料理番」の佐藤健のように鍛え上げられる過程を描くならよいけれど、天才料理人の配役には無理があり、鼻白むことが多すぎる。

 

 今期ドラマにもその手のモノがいくつかあり、のっけから「ありえねー」連呼。

 

 でも夏だから。夏は暑さでボーッとして、思考停止に陥りやすい。なぜか若さを愛でる季節でもあるから、寛容を心がけて観ることに。

 

 ひとつはフジ「好きな人がいること」。糖質・たんぱく質・脂質の消化&吸収機能を心配してしまうほど、棒のような体形のふたりが主演。おまけに演技も棒。体形は詮無いが、ひと夏の恋模様を表現するには、あまりに稚拙でご都合主義な設定。失業中のパティシエ(桐谷美玲)が偶然出会った初恋の男の家に居候。そこにはイケメン兄弟も住んでいて……って、なんだそれ。失業中でも恋したい、キスしたいって逼迫(ひっぱく)感ゼロ。しかも作るケーキの味は絶品だとさ。桐谷を敵視する次男(山﨑賢人)も凄腕シェフという設定だが、観ている限り、鍋をかきまぜてばかり。佐藤健ばりの包丁捌きもなく、見せ場ゼロ。ないないづくしのコスプレドラマはすべてがどこまでも浅く薄く、罪だけが深い。でも舞台は夏の輝く海。夏という逃げ道は便利だね。

 

 もうひとつ、夏ドラマを。日テレ「時をかける少女」だ。目新しさはまったくない、誰もがうっすら知っている内容に敢えて挑む日テレの自信過剰。無防備が棒演技ととらえられがちな黒島結菜が主演だ。でもこっちの棒は私の好み。時空を超える能力を身につけた女子高生役が、熱と媚びた色気と熟した技量を持っていたら、世界観が崩れるから。

 

 角川映画×大林宣彦監督の空気感、尾道風味を心の底から愛する人は舌打ちするかもしれないが、棒演技は原田知世から受け継がれる立派な伝統芸よ。女友達がいないのは心配だが、黒島の爽やかさは心くすぐる。

 

 また、黒島に恋する幼馴染の竹内涼真がいい。そのおぼこい愚直さが切なくて。竹内は自然体で純朴な男子を好演。私の色眼鏡が起動。

 

 俯瞰すれば、若手ジャニーズ接待色が超濃厚だし、黒島が自在にタイムリープをしすぎて、せっかくの憂いが消失しているマイナス面も大きい。やり直しがきかず、思い通りにならないのが思春期の醍醐味なのに。

 

 それでも、静岡の海の美しさが私の角を丸める。学校の屋上の映像で癒される自分がいる。青臭い懐古趣味と現実逃避願望を刺激されている中年も多いと思う。

 

 

※「好きな人がいること」(フジテレビ系、月曜21時〜)

※「時をかける少女」(日本テレビ系、土曜21時〜)

※「週刊新潮 2016年8月11・18日夏季特大号」掲載

 

プロフィール
吉田潮
よしだ・うしお/テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。 公式HP http://yoshida-ushio.com/